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Sarah Moonの写真に降り積もる時間と記憶 |NOW AND THEN |


時間は確かに流れているものだけど、サラムーンはそれを最も美しい瞬間で止めてしまう事が出来るようです。サラムーンの写真に写し出された世界には、流れている時間とそこに閉じ込められた時間の双方を意識することができます。その写真の中の風景や動物たちのいた時間は、そこに封じ込められるまで確かに流れていたのだと感じられるし、サラムーンがシャッターを切った瞬間、まるで石になってしまう昔話の物語のように突然に、かつだんだんとそこに留まって沈殿していっているかのようです。そして画像の中で動かず物言わぬ存在になっても、「私は覚えている」と観る人にその記憶を語りかけているような雰囲気を醸しています。
実際サラムーンの写真は時間をかけて創りだされています。 ネガ付きのポラロイドで撮影し、薬剤で定着させないまま化学的な変化を待って創り上げられています。 なので、その世界に時間が沈殿しているというのは、まんざら見当外れではないのです。写しだされたものは、徐々に、徐々にその画像の世界の中の住人になっていくのです。またそれが、一見儚げでありながら、ずっしりとした存在感と濃厚な空気感を感じる彼女の作風の由縁でもあるように感じます。


Sarah Moonの写真に降り積もる時間と記憶 |NOW AND THEN |_e0168781_224070.jpg



今回の個展は、2013年パリの自然史博物館で行われた 『Alchimies』展の出品作や新作を中心にカラーやモノクロームの写真で構成されていますが、これはサラムーン本人のセレクトによるものだそうです。この『Alchimies』は錬金術師という意味なのですが、このentitleがまたとてもとても洒落ていて、初めてその意味を知った時は、何ともいえないその言葉の響きにうっとりとしてしまいました。 自然史博物館にひっそりと佇んでいる剥製となった動物たちの記憶と時間から、まるで錬金術師が僅かばかりの金を生成するためにたくさんの手間と時間をかけるように、サラムーンの作品は仕上がっていくのです。私が訪れた時は人もまばらだったそのギャラリースペースは、まるで時間が粒子のようにさらさらと音を立てて流れているかのような雰囲気でした。言葉の響きと言えば、”Sarah Moon“という音の響きもとても素敵です。
自分として2冊目の彼女の写真集を購入したのですが、私が「これ、好きだなぁ。」と思った作品で収められていないものがありました。 でもきっと、その作品は、彼女の写真が生成されていくプロセスのように、私の記憶の中でゆっくりと時間をかけて沈殿し、いつまでも残っていくような気がしています。





NOW AND THEN
サラ・ムーン/SarahMoon
AKIO NAGASAWA
2015年4月24日(金)- 6月14日(日)
http://www.akionagasawa.com/jp/exhibition/now-and-then/










『Alchimies』
パリの自然史博物館の展示室には作品の中で時間を止めているライオンの剥製が展示されていたそうです















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by sanaegogo | 2015-05-10 00:00 | art


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