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Chandigarh @ CoSTUME NATIONAL│LAB
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青山のコスチューム ナショナルで開催されていた ホンマさんの久々の(?) 写真展『Chandigarh』がとても良く、余韻を残しています。 インド北部のパンジャブ州に位置するチャンディーガルという街で撮影されたもので、ホンマさんでインドというのも意外だったのですが、その撮影された光景は、ガンジス川で沐浴をする雑踏とかではなく、畦道で牛を牽く人々というのでもなく、法服を身にまとったインテリジェンス漂う知識人達というのがまたとても意外でした。これは2本あるうちの映像作品。もう1本はバスターミナルを行き交うバスや利用者のいかにもインドらしい活気のある様子を朝から晩まで記録したものです。



写真展(映像作品もあったので、作品展と呼ぶ方が相応しい?)の全貌はこうです。入り口を入って左手の展示室には、高い目線で窓からの眺望を写した写真。これはこの街の合同庁舎から撮影されたものだそうです。視線の先にはこの街の象徴的な建造物である高等裁判所(ハイコート)の建物があります。そしてその両サイドには、そのハイコートを再び高い位置から捉えたもの。近代的な建築なのだけど、鈍くカラフルな色彩で塗り分けられていて、建物としては興味をそそられる雰囲気なのだけど、どこかインド的ではないような雰囲気。その不思議な違和感にますます何かそそられるものを感じます。両サイドのその写真にはパトランプを付けた車両や制服や法服の人々が日差しを避けての立ち話や何処かに移動していく様が見て取れて、ここが司法関係の建物だということが判ります。







もう一つの部屋では映像作品が上映されていて、ひとつはその鈍くカラフルな建物の敷地内で法服の人々が休み時間に談笑しながら、あるいは足早に行き交っている情景をスローモーションのようなゆっくりとしたスピードで写しだされています。画面のスローな動きとは対照的に流れているのは少し速いテンポで激しい曲調のインドの音楽。(ポップスなのか古典なのかはちょっと判らない。) もうひとつは街のバスターミナルを行き交う生活者達の世話しない様子。これはタイムラプスの映像のように撮影されていて、目まぐるしく動き回る生活者達を捉えながら、記録されていて、すこしぎくしゃくとした動きの映像は街の喧騒にとても良く合っていました。部屋の中央に置かれたソファーで左右に入れ替わりに映像が始まるのですが、映像は唐突に終わり、もう一方が唐突に始まり、また唐突に終わり、そしてもう一方が始まり、それを繰り返しています。

その色彩の効果とインパクトのある音楽の効果もあったのだと思うのですが、ふたつの映像作品のうちひとつめに紹介した司法の建物を捉えた映像を何度も何度も見たくて、ちょっと長居をしてしまったような気がします。レイヤーのように重なり合ったそのカラフルな壁はまるでバレエの舞台袖のように、そこから入れ代わり立ち代わり、その時間、そこに居合わせた人が登場します。法服のたっぷりと使われている黒い布の動きに合わせて揺らめく様が、スローモーションと良く合っています。談笑する顔、厳しい表情、無表情な人までも、その写しだす表情は豊かで、しかも司法関係の公的機関で働いている人々らしく、隙がなく、どことなくオーラのようなものを発していて、どの人にフォーカスしても様になっています。 ホンマさんの作品はいつもそうだと思うのですが、上手く自分の感じたことをぴたりと言い表せないもどかしさがあります。 何の前情報もなくふらっと観に来て、その撮影地がインドだという違和感が気になってはいたのですが、ホンマさん、インド、司法関係のインドらしからぬ建物という私のなかのミスマッチ感を最高に刺激するのがこの映像作品だったのかも知れません。

後でいろいろ読んで知った事ですが、この「チャンディーガル」というインドの都市は、ル・コルビジェが何もない更地の状態から都市計画を行ったコルビジェ建築の代表的事例にもなっている都市なのだそうです。(このことは「チャンディーガル」と聞いただけでコルビジェや建築に詳しい人なら言わずと知れた事なのだと思いますが。) 建設されたのが1950年代で、当時のインドとしては画期的な計画であり、コルビジェらしいモダニズムと機能美を追求した建造物は今でも都市に住む人々に愛着をもって利用されているそうです。レイヤー状に見えた対比の強い色彩の「ブリーズソレイユ」は、存在感を放ち美しく、それこそ言いようのないオーラを放っていました。私がどうにも気になっていたその映像の建物は最初の写真の部屋で遠巻きに撮されていた建物と同じものだったというのも観ていた時には繋がらず、あの違和感の正体のキーワードはコルビジェであり、ホンマさん、インド、インドらしからぬ建物という方程式は、「コルビジェ」によって解かれたようです。




ル・コルビュジエが設計したチャンディーガルにある最高裁判所(ハイコート)
カラフルなブリーズソレイユがそれを見る方向によってレイヤーになっています
ブリーズソレイユ(brise-soleil)とは建築用語で窓や壁の前面に取付けられる日照調整装置をいうそうです。






横から見たブリーズソレイユは、どことなく非現実的な空間に感じられ、舞台装置のようでもあります。







壁の向こうから 道化師や大道芸人とかが現れて 横切って行きそうな雰囲気です。




ホンマさんが何故インドのこの地を撮影地に選んだのかはこれで納得がいきました。そうしてあの作品を振り返ってみると、あの映像は、建物の持つエネルギー、そこで活動をする人たちのエネルギー、(動であっても静であっても)、などを端的で最良な方法で切り取って、持って帰って来たものだろうと感じました。ある種の思い入れで彼の地に赴くも、それと対峙すると過度な感情移入はせずある一定の距離感から観察的な態度を示すようなツンデレな感じがそこにあった気がします。




余談ですが、今回の展示、写真の展示方法はダブルクリップでの壁への直貼りでした。数年前参加したグループ展でその時に出した作品に額装のイメージがなかったのでやはりダブルクリップで引っかけて直貼りをするという暴挙に出ました。設営の時「写真に相当インパクトがないと直貼りは難しいよ。」とグループ展の他の参加者に半ば「やっちゃった!」感で迎えられたのを今でも覚えてますが、やっぱり、直貼りかっこいいですね。


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by sanaegogo | 2015-02-11 00:00 | art


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