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生誕100年 ジャクソン・ポロック展
「アメリカで今生きている最も偉大な画家か?」とライフ誌が評した革命児、ジャクソン・ポロックの生誕100年を記念した回顧展が東京国立近代美術館で開催されている。


生誕100年 ジャクソン・ポロック展
2012/2/10 ― 2012/5/6
東京国立近代美術館


日本で初めて開催される、まとまった点数を見る事が出来る回顧展で、現在国内で収蔵されているポロック作品の全てが展示されている。その数、海外からのものも合わせて70数点。早世し、かつ生前はその不安定な精神状態から自ら破棄してしまった作品も多いため、作品の総点数はそれほど多くはないポロックだけの個展の実現は、ポロックファンを少なからず驚かせ、「今後、この量・質での開催は実施できないだろう。」と専門家は語っているようだ。世界中に散らばってしまった作品達の中には門外不出になってしまっていたものもあり、例えばテヘラン美術館所蔵の「インディアンレッドの地の壁画」(1950)などがそう。作品が少ないのに強烈な個性を残しているこう言った作家の個展を行うには、そこに強い思い入れと苦労を感じ取る事ができる。平日の割には近美には多くの人が観に来ていたが、いつもよりも鑑賞する人たちは熱心であったような気がした。

ポロックもその作風、スタイルを次々と変容させていった画家の1人で、その集大成というか絶頂期のスタイルが、「オールオヴァー」と呼ばれている図も地もない均一で画面の端の端まで埋め尽くされた絵画スタイルだ。これは「ドリッピング」(dripping)とか「ポーリング」(pouring)と言う、絵筆を直接画面に触れさせる事なしに、その飛沫によって表現する手法によって描かれていて、ポロックの最高傑作と呼ばれているいくつかが、この時代にこの手法によって生み出されている。自分自身がポロックと言う画家を認識したのもその時代のものだったのだが、この回顧展を観に行って、この絶頂期に長く留まる事なく、比較的あっさりと次の試行錯誤に移っていった事を知り、絶頂期の滞在期間は短いのに、近代の名だたる画家のひとりとして数えられる事となるこの「オールオーヴァー」が与えるインパクトの凄さも同時に知った訳だ。自分が始めてポロックを知ったのは、多分、中学生の頃、図書館で図録や画集を漁っていた頃だと思うのだけど、この「オールオーヴァー」に対してさほど違和感は感じなかったように記憶している。『これは絵画か?』と言う見方もあった(ある)ようだけど、自分には充分に絵画として認識されていたように思われる。ポロックは決して偶然だけを頼りにしてドリッピングやポーリングを施していた訳ではなく、そこにはある種の意図であるとか、規則性や反復を見出す事が出来て、彼はあくまでも画面を意図的に創りだし構成させている。それが今回の回顧展を観て、再確認する事が出来た。床に画材・画布を置いて、全体を見ながら叩きつけるように、時にはスナップを効かせて、エナメルやアルミニウムの塗料を置いていく。その画面に打ち付けられる塗料の形状は確かに偶然の産物かも知れないが、明らかにポロックは全体を上から俯瞰しながら全体の構成を見ている。そう、画面を構成させているのだ。これはどちらかと言うと、何か表現対象があるファインアートと言うよりは、テキスタイルアートであるとかグラフィックなどの感覚に近いのかも知れない。
この画面を均質に埋めていく作業は「アクション・ペインティング」と呼ばれており、このペイントする行為自体も含めたものがポロックの作品である、と言う事が出来るのではないだろうか。同じように作風を頻繁に精力的に変えていった画家として、ピカソがまず頭に浮かぶが、ポロックもまたピカソに深く影響を受け、それを乗り越えようとしていた。『全てあいつ(ピカソ)が既にやってしまった!』と言うような発言も残していると本回顧展では記されていた。しかし遂には、アクション・ペインティングも含め、このオールオーヴァーの手法によって、ピカソを越える云々ではなく、全く別次元のところで、ジャクソン・ポロックが唯一無二のユニークな存在である事を実現させたと言えるのだろう。現代のコンテンポラリー・アートのアート・パフォーマンス(ライブ・ペインティング、ライブ・インスタレーションと呼んだほうが的確か?)に通じるライブ感溢れるその作業は、ピカソの仕事と敢えて比較をするのであれば、当時としてはより前衛的だったのだと言えるかもしれない。
最後に、ポロックと言えば気になるのが、その独特の色彩。茶・黒・白・銀など暗く沈んでいながらにしてコントラストの強いその画面のストラクチャー。絶妙のバランスで散りばめるターコイズや赤、黄色。こんな粗織のツイードのコートがあったら是非欲しい、と思ったことがある。それは冗談として、ポロックはネイティブ・アメリカンの文化・芸術にもヒントを多く得ている、と言う事。なる程、顕れ方は違っていても、その根底に流れるものに不思議と惹かれるものなのだな、と実感した。(私自身、ネイティブ・アメリカン・アートが好きなので、それで、このポロックの色彩に妙に惹かれたのだな、と。)
近美はホント良いのをやるなぁ、と予てから思ってるところですが、会期はまだまだあるので、是非。



MoMAで観たポロックの接写。作品名はちょっと不明。本当はかなりの大画面なのだが、画面いっぱいに撒き散らされたエナメル塗料の重なりと隆起が面白くて接写をしたのを覚えている。(残念ながらボケてるけど。)

公式ホームページ: http://pollock100.com/
プレスリリース: http://pollock100.com/pdf/release-Pollock-PR.pdf

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by sanaegogo | 2012-03-15 00:00 | art


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