ふたつのVivian Sassen展 ― LEXICON と PIKIN SLEE
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私のまわりにヴィヴィアン・サッセンのファンって結構いるんですよね。 ファッションの世界に軸足を置きながら、鮮烈な色彩のアートフォトとしての写真作品も手掛けていて、また、ファッションシューティングの方でも一風変わったハッとするようなショットを数々生み出しています。ここ最近は2個所で同時開催という形式をとる写真展が続いている気がしますが、ヴィヴィアン・サッセンについても例外ではなく、ここ東雲TOLOTのG/P + g³/ galleryと恵比寿のG/P Galleryで同時開催されていて、日本初の個展になるそうです。 ヴィヴィアン・マイヤーはオランダの人で、幼少の頃に南アフリカに滞在していたそうで、(ケニアと言っているテキストもあります)、幼い少女にアフリカの鋭く射抜くような日差しと躍動的なそこに住む人々の記憶はきっと強烈なインパクトを与えたのでしょうね。人格の形成に影響を与えたと言っても過言ではないのでしょう。 なので、「自らのルーツ」として位置づけ、アムステルダムで暮らす今でも、繰り返しそこを訪れ撮影を続けているその行為も容易に理解できます。ヴィヴィアンの写真には強いコントラストと濃厚な色彩があります。 スタジオの写真はあまり見たことがないのですが、今回観ふたつの個展でも、強い明るいライティングを施したような眩しいばかりの光と、その強い日差しによって落とされる漆黒のような濃い影が随所に見られました。質量までも感じてしまいそうな骨太の太陽光は輪郭のはっきりとした存在感のある影を創りだします。 カラーであれ、モノクロであれ、彼女の写真にはその明と暗が力強く存在しています。


LEXICON
会期:2014年10月4日(土)~11月29日(土)
会場:東雲 TOLOT内 G/P + g³/ gallery
http://gptokyo.jp/archives/1789




「LEXICON」という言葉を聞いて、私のボキャブラリーにはなかったので、彼女のバックグラウンドから南アフリカの都市の名前かな?と思っていたのですが、用語集、(特定の分野の)語彙、目録、語彙目録とかいう意味の単語だったのは意外でした。これは、写真集のタイトル『LEXICON』からの作品展示で、人間の根源的な感情をテーマに初期から近年までの南アフリカで撮影された写真を再編成したものだそうです。 なるほど。そこにクローズアップされている南アフリカの現地に住む人々が、一見奇抜なポーズをとって、全身で何かの「言葉」を表現しているようで、その集大成としての「語彙録」なのでしょう。ただ、その肢体のポーズに意図されている感情は、とても複雑で複合的なもので、単純にひとつの言葉を象徴しているだけのものとは思えないほど意味深な雰囲気が続きます。 ひとりの人物が示すポーズ、ふたりの絡み合ったいかにも不自然なその状態の意味するところは、ヴィヴィアン自身の意識にも昇ってきていないような気がします。 どの写真も何かの確認作業のようにじっくりと時間をかけて撮影されているのを見て取れるし、その根源にある何かの言葉(感情)を、語彙(感情の総体)をヴィヴィアン自身が探しているかのようにすら見えます。 「嘆きのポーズ」「Sympathy(共感)のポーズ」「絆のポーズ」「羞恥心のポーズ」自分勝手に写真の中の被写体のとるポージングに名前を与えてみようとすると、いかにそれらが一言では顕しきれない複雑で意味深いものを孕んでいるかに気づき、それがヴィヴィアンの持つLexicon そのものなのだと再確認できて、これは面白い作業でした。



全くの余談ですが、この不自然極まりないポーズを見て、昔一世を風靡した「ヴォーギング」とか「山海塾」とかを少し彷彿とさせるものを感じましたが、これはこの両者の造詣に深い人に言わせればきっと、「単なる見た目の問題ね。」と一笑に付されるのだと思います、が、なにか基本の理念みたいなところで繋がっているような気もします。そしてその鮮やかな色彩と強いコントラストを持つ鮮烈な写真であるにも関わらず、どこか憂鬱で何ものかへの畏怖や畏敬を感じる雰囲気を持つその表現世界は、まさに「光」と「影」のコントラストによって象徴されているものなのでしょう。ある種の精神世界がそこには横たわっています。彼女が写し撮りたいものは、その「明」の部分ではなく、その影にひっそりと身構えている「暗」の部分であるに他ならない気がします。それらの写真はある種の感情を表してはいるのですが、そこに写されている人々は一切の感情を排しているかのようであるのが印象的です。





PIKIN SLEE
会期:2014年10月4日(土)~11月30日(日)
会場:恵比寿 G/P gallery
http://g3gallery.jp/archives/782




Pikin Sleeとは、アフリカのスリナムにあるスリナム川の上流の熱帯雨林の中にある村の名前だそうで、サラマッカ族という部族が暮らしています。彼らの祖先のマルーンと呼ばれる人々は18世紀にオランダの植民地から逃れてきた奴隷だそうです。この村で撮影された写真で構成されたPIKIN SLEEは鮮やかな色彩のLEXICONとは対照的にほとんどがモノクロームの風景ばかりです。風景というか、その村での生活の営みを表している某かのシンボリックな「モノ」の連続です。どこか静物画の絵画のような雰囲気にも通じるその作風はヴィヴィアン・サッセンの新しい境地を垣間見せるものだそうです。 よりプリミティブでありのままで、実生活に眼を向けたような落ち着いた静けさ雰囲気の写真です。 しかしながら、その対象の捉え方にはヴィヴィアンらしいどこか迫力めいたところが感じられて、言葉として何かを表現される前に、そのものとして何かを語っているようです。 シンプルな写真だけに、ストレートに感情移入された生々しさみたいなものがあります。よく右脳は画家、左脳は小説家などと言われますが、このヴィヴィアン・サッセンは、そのアウトプットに右脳しか使ってないのじゃないかな、なんて思います。その写し撮るものだけで雄弁に何かを語っているのですが、それは言葉を介してでなく、言語になる前の感情みたいなもの、と言ったらよいんでしょうか。 雄弁に語ってはいるものの、それは言葉ではうまく表せないのです。 言葉で冷静に表現しようとしても、押し迫って来る何かの感情で溢れてしまい、もはや言葉で表そうとする事にはあまり意味がないという事を思い知るのです。 寡黙さが雄弁にありのままを語っているかのようです。




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by sanaegogo | 2014-10-18 00:01 | art | Comments(0)


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