バルテュス 最後の写真 ―密室の対話
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上野の西洋美術館でバルテュスを目撃したのは、5月の事でしたが、その時から楽しみにしていたこの三菱一号館でのポラロイドの展示です。老齢で手が利かなくなってしまい、下絵作業での仔細な描線を描くのが困難になったバルテュスが用いていたのがポラロイドで、その自分の頭の中にあるイメージを精巧に再現し確認するために何枚も何枚も撮影されたものが、三菱一号館の展示室ではなく、資料室で展示されています。 まず、その展示室の小ささ。 今回の展示はバルテュスの作品というのではなく、制作のための資料という位置づけの展示なので、この小さな資料室で展示されているという事が、何だかバルテュス自身の秘められた内側の部分を顕しているようで、私自身は、作者が公開することを望んだか望んでいないか(没しているので確認しようがないけど)は別として、この小さな部屋は、生前は密やかに匿われていたであろう彼の秘匿のようなものを こっそりと観るに相応しい気がしています。




この企画自体はニューヨークのガゴシアン・ギャラリーで写真展として開催されたものを日本に持ってきたもので、ガゴシアンではポラロイドはマッティングをして額装されていたみたいです。 そうなると、この多数のポラロイドの見え方も全然違ったものになるのかも知れないですね。 どちらがどうとは言えないですが、この建物の横の小さな出入り口から入る裏の小さな資料室での展示の方が、このポラロイドを撮影した時のバルテュスの心情により寄っているような気がします。 実際この撮影も、グランシャレのroom107で、幼いモデルと二人っきりで密やかに行われていたようです。




展示の方法もそうですが、観る人によって感じ方が違うであろう展覧会もないように思います。女性ならば、自分の経験を顧みて、まだ固く成長の痛みを伴いながら変化しているであろう幼い胸をさらけ出す少女に何か複雑で不安で危うい思いを感じとるだろうし、男性は、この後、彼女が遂げていく女性としての劇的な変貌の兆しを見て、そこに神秘的なものすら感じられるのかも知れません。(実際ショーケースの中のモデル アンナ・ワーリーは 確実に成長して行っています。) 母親ならあまり賛成は出来ないような光景を目の当たりにしているのかも知れないし、父親ならその娘の勇気を誇らしげに思うのかも知れません。展示室にはひとりもいませんでしたが同年代の少女は? 同じようにモデルに対峙して画を描いたり写真を撮影したりするアーティストは? モデルのポーズを確認するためだけのこれら膨大なポラロイドなのですが、その先に派生していく感じ方や捉え方は多種多様で、それもまたバルテュスのunavoidableな一面を顕しているかのようです。

注目すべきはその「シツコさ」です。何枚も何枚も微妙に位置を変える手や首の角度、ガウンのはだけ具合、などなど。 バルテュスが一枚の画の中の微妙なバランスに拘り、納得のいくまで(だったのかは知る由もないですが)執拗にポーズを求める様子が展開されています。手の自由を奪われた画家の鬼気迫る制作態度と言ったところでしょうが、不思議と全体の流れは静かに粛々とした印象を受けます。 頭に大きな白い布を巻き、顔を隠すようなポーズの写真もありましたが、このシリーズは何だか倒錯めいていて、一言では言い表しがたい世界観を醸し出していました。アンナ・ワーリーは、8歳から16歳まで(1992年~2000年) バルテュスのモデルを務め、イマジネーションを与え続けました。 他の誰もが得難い特別な体験をしたのだと思います。 画家が自分の描く対象を鋭く静かに観察する眼に晒されて、最初はとても緊張したと語っていて、バルテュスも緊張していたそうです。その緊張感がポラロイドを通してこちらにも伝わって来るようです。 実際にモデルを務めた人物の語る生の言葉をテキストとして読み、展示を観ることが出来るのも、同時代に生きていた作家(しかも巨匠)ならではの事で、彼女のテキストがこの展示に一層厚みとリアリティを与えています。テキストの中でアンナ・ワーリーは自分とバルテュスの事を「共犯者」と表しています。 モデル アンナ・ワーリーから見たバルテュスとのその関係性の表現が、まるでこの展示そのものがバルテュスのひとつの作品であるかのような ドラマチックなものにしています。 上野の東京都美術館で「バルテュス展」を観た方は こちらにも足を運ぶことを強くお勧めします。


「バルテュス 最後の写真 ―密室の対話」展
The Last Studies ; Balthus in Tokyo
2014年6月7日(土) ~ 9月7日(日)
三菱一号館美術館 (歴史資料館)
http://mimt.jp/balthus/




こちらは、ガゴシアンギャラリーのもの。



GAGOSIAN GALLERY
BALTHUS
THE LAST STUDIES
SEPTEMBER 26, 2013 – JANUARY 18, 2014
http://www.gagosian.com/exhibitions/balthus--september-26-2013



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by sanaegogo | 2014-07-26 00:00 | art | Comments(0)


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