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We shall meet in the place where there is no darkness. (暗なきところで逢えれば)


「暗なきところ」ってどこだ? その答えは、サブタイトルを見て理解しました。
We shall meet in the place where there is no darkness.
― 暗闇のないところでお逢いしましょう。
米田さんはロンドンでの生活が長いので、もしかしたら、彼女にとってのメインタイトルはこの英語でのセンテンスなのかも知れません。 「暗闇」とは、かつてその場所に横たわっていた「時代の闇」のことで、今はもうそこに闇はないけれど、その場所にはかつては確かに闇があった。その事をしっかりと踏まえ、見つめ直してその場所に向き合う。 そんな制作の姿勢がこの写真展には如実に顕れていて、それが、米田知子さんの確立したスタイルなのです。

米田知子 TOMOKO YONEDA
暗なきところで逢えれば
We shall meet in the place where there is no darkness.
会場: 東京都写真美術観
会期: 2013年7月20日 ( 土 ) ~ 9月23日 ( 月・祝 )
http://syabi.com/contents/exhibition/index-1864.html
  • Scene
  • Japanese House
  • Between Visible and Invisible 見えるものと見えないもののあいだ
  • Kimusa
  • The Parallel Lives of Others: Encountering with Sorge Spy Ring パラレル・ライフ: ゾルゲを中心とする国際諜報
  • The Island of Sakhalin サハリン島
  • Cumula 積雲
  • Crystal 水晶
  • [映像作品] We sall meet in the place where there is no darkness 暗なきところで逢えれば

展示は全編にわたり殆どの作品が、過去の歴史や記憶へと観る者を誘(いざな)うトーンで構成されています。 写真展なのに、作品は単なる入り口のような役割でさえあります。 どこか文学的で歴史書を紐解いていくような感覚を覚えます。 後ろ向きと言えば後ろ向きなのでしょうが、何気なく存在している日常の風景の中にも歴史(ともすれば暗い歴史)が横たわっていて、それを突きつけられて知ってしまった今となっては、知る前とは同じ感情で作品を観ることは出来ません。 何故その場所の写真を撮影したか、『何かの出来事があった場所』というふわっとした情報しか付加しない方法もあるのだと思いますが、米田さんは敢えて事実関係を明確にタイトルの中で著わしています。 これは事実を直視する姿勢の顕れてあり、写真という記録のツールを使って、時間を遡って史実を記録して提示するその手法は、ある意味、論証する学者の態度のようでもあります。 事実が印象という効果を借りて観る人の記憶の中に深く刻み込まれていくのです。 『写真作品をつくる』という事において、深く考えさせられ、うっすらと衝撃をうけた写真展でした。 米田さんは丹念なリサーチを経て、場所に赴き撮影をします。 それは、何冊も参考文献を読み、事実を調べ書き上げていく史実に基づいた小説を書いていくことに似ているような気がします。 米田さんの写真には漠然としたところがなく、全てが歴(れっき)とした括弧たるものなのです。 なのでとても印象が強い。 なかでも "The Parallel Lives of Others: Encountering with Sorge Spy Ring" は圧巻でした。 戦時中のスパイの諜報活動を調べ、資金や情報の受け渡しの場所を古いカメラを用いて素早く撮影する。 まるで、スパイたちが素早く様々なものを交換し、行きずりのようにその場所を離れたように。 宝塚劇場、小石川植物園、上野動物園、平安神宮と、様々な接触場所を調べ上げ、接触した人物までも記しています。物凄い調査の労力です。そこに撮影されている画像も、ごく小さいものでしたが、どれもこれもとても美しいものでした。 そう、米田さんの写真はあやふやなところがなく、とても美しいのです。 その画面の美しさが、かつてそこにあった「歴史の闇」を際立たせているのかも知れません。前述、「写真は単なる入り口」と言いましたが、その入り口の奥に広がる様々な意味合いを著わすには余りある写真ばかりです。 何とも著わし難い気持ちになった写真展でしたが、自分には対処出来ないような大きな時代のうねりみたいなものを感じ取ってしまったのかも知れません。映像作品もとても印象に残っています。 雪の降り頻るひと気のない木立の中の道に遠くから大きなトレーラーが轟音を上げてやってきて、そして通り過ぎていく。 それはまるで、質の高い文学作品のようでした。

We shall meet in the place where there is no darkness. (暗なきところで逢えれば)_e0168781_2259135.jpg








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by sanaegogo | 2013-09-23 00:00 | art


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