「Showa88/昭和88年」
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©薄井一議「Showa88/昭和88年」#01


薄井一議写真展「Showa88/昭和88年」
開催日:2013/6/15 ― 2013/8/8
開催地:写大ギャラリー
ギャラリートーク :2013年7月20日 14:00~

今がもし、昭和88年だったら。 その時代(時間)設定にうっすらと混乱を覚えずにはいられません。『もし、あの時終わってしまっていたものが続いていたら・・・・。』これは薄井さんが予てから温めている独特の眼線というか、視点のようです。 私はこの独特の時間の起点の置き方にうっすらと混乱させられました。 昔から色々な小説や映画で近未来を想像して、『その頃にはきっとこうなっているだろう』的な作品は本当に数多くありますが、時間の起点は今自分がいる現在を軸にしています。『2001年宇宙の旅』然り、『ブレードランナー』然り、『ターミネーター』だってそうです。やがて時が流れて、昔思い描いていた未来に次々と現実が突入していく訳ですが、今は2013年で2001年はもうとっくの昔になってしまっています。あの頃の作者が思い描いていたその頃の『未来』と『今』には大きなズレがあって、それは世の中が2001年になった時に確かめる事の出来るものでした。薄井さんは、今、昭和88年という形で、現在の傍らにそのズレたもうひとつの世界を作り出しました。過去を起点とした同時代的未来とでも言いましょうか。昭和64年で終了してしまった昭和がもしそのまま進んでいたら。 その頃の別の未来(と、言うにはSFではないので、少々そぐわない感じもしますが) に向うもうひとつの時系列を作為的に造りだしたのですね。自分が何故この事に幾ばくかの面白味を感じるかを頭の中で整理しようとしても、どうも思うように言い顕せず、このもやもやが一層面白味を感じさせるのだという気がしますが、薄井さんのトークを聴いていて、彼は深く思考してこの設定を練り上げているかのように見えて、とても直感的な人なのだ、と感じました。 作品として写真を撮る人には、感覚で情景みたいなものを追いかけいくタイプと設定を深く思考思索してつくり込んでいくタイプの人がいるのだと思いますが、『直感的に練りあげる』、というのがあるのだとしたら、薄井さんはまさにそんな感じなのだと思います。 写真を志す前は映画を作る人になりたかった、と語っていましたが、幼い頃から途絶える事なく脈々と続いている『薄井ズム』みたいなものが、そのバックボーンにずっしりと効いているのだと思います。昭和88年という設定の妙がこの写真集にはあります。
もうひとつは、何と言っても色彩の素晴らしさですよね。私が言うのも本当に僭越なのですが、これが確固たる撮影技術の質の高さなんでしょうねー。うーーん。唸る。 私が以前拝見していた作品としての薄井さんの写真は、ガンメタや鋼のように黒光りしたモノトーン、と言うかどちらかというと『銀』のイメージだったのですが、この昭和88年はかなりビビッドでブライトで眼を奪われました。マゼンタ、オレンジ、イエロー、これらの発色の良い色彩が何故か今、『任侠』の甦った世界と合間ってどこの時代にも所属しない昭和88年の世界を作り出しています。 私の少ない引き出しを探ってみても、映画とかでこれまでの巨匠は、未来というとどこか薄暗く、どちらかというと味気ない機械の色彩のような表現が多いと思いますが、昭和64年から起算したこの世界は色彩に溢れています。(いや、奇しくもここ最近女性のファッションではネオンカラーが流行っているのも、面白い偶然かも知れませんが。) 『なんでピンクなんですか?』と率直に訊いてみると、ご本人曰く、古い写真は劣化してマゼンタがたってくるので、そのイメージ、なのだそうです。 これも私にしては眼から鱗が落ちるような答えだったと思います。 任侠の世界もこんな色彩の中では、一見退廃的なようでもありながら、昭和の時代の何処となく埃臭さや汗臭さとはまた違った洗練されたスタイリッシュさを感じ、それが、菅原文太や藤純子の描く任侠の世界とは一線を隔した昭和88年を顕しているように感じます。 しかし、何故いまヤクザの世界なのでしょうね。 その辺の話をもっと聴きたかったのですが・・・・・。 自分の立ち位置を『今』にすればそれは、隣のもうひとつの『今』。『昭和64年』にすれば、やがて辿っていたかも知れないもうひとつの『未来』。でもそこに映し出されているのは、昭和64年にも既にノスタルジーをもって語られていたような泥臭い『郷愁』。観ている自分の軸が一体どこにあればよいのか、そんな、自分自身が全て同じ時代に生きているだけに生じてしまう、うっすらとした混乱に引き込まれるのかもしれません。




©薄井一議「Showa88/昭和88年」#17





©薄井一議「Showa88/昭和88年」#39





©薄井一議「Showa88/昭和88年」#28


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by sanaegogo | 2013-07-20 00:00 | activity | Comments(0)


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