『美術手帖』×『芸術新潮』「フランシス・ベーコンを編集する。」
鈴木芳雄。ブルータスの名物副編集長時代から「フクヘン。」として名を馳せ、いまもコンパクトカメラ片手に世界中を飛び回る、永遠のスーパーエディター。
(2011年 鈴木芳雄写真展「シヤシン、フクヘン。」テキストより)

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そのフクヘンが最近青山ブックセンターの『青山ブックスクール』で『本・現場・美術』と言うセミナーをやってます。今回はこれの番外編第1回。この度、巷で盛り上っている近美で開催中のフランシス・ベーコン展について、美術手帖と芸術新潮が同時にベーコン展の特集記事を組んだのです。普通なら「被らないように」と言う力学が働きがちな業界で、同時に大々的に特集を組むのはとても稀有な事らしく、この機会にこれをネタに色々出版裏話とか2社(2誌)が互いに互いをどのように意識しているか、なんて話をさせてしまおうと、フクヘンが話を訊く、と言う企画です。近美に展覧会を観に行く前に色々勉強してから行こう!と思い立っていた私は、予てからのフクヘンファンだった事もあり、『今でしょう。』とばかりに出かけてきました。

本・現場・美術 番外編 第1回
フランシス・ベーコン特集刊行記念
『美術手帖』×『芸術新潮』「フランシス・ベーコンを編集する。」
岩渕貞哉(美術手帖編集長) × 米谷一志(芸術新潮編集長) × 鈴木芳雄
2013年4月23日(火) 19:00~21:00
青山ブックセンター本店
http://www.aoyamabc.jp/culture/fukuhen-wkspex1/

本当は4月6日に予定されていたのですが、この日はその前から関東が大荒れで外出は控えてくださいと各局の天気予報が口を揃えて警戒を促していたので、ABCも異例の延期。結果、天候は大して荒れなかったんですが、まあ、英断と言えるでしょう。改めまして、平日の開催だったのですが、行かれてよかった。(安堵)
始めに両誌の編集長が紹介されたのですが、始めに岩淵編集長が、その後米谷編集長が紹介されました。美術手帳の創刊が1948年創刊、芸術新潮が2年後の1950年。と言う事で、米谷編集長の方が年長なんですが岩淵編集長を先に紹介します、とのコメントがフクヘンから。この辺りの(きちんと意図を伝える)さり気ない配慮やそれを伝える事で登壇者2人やオーディエンスに与える安心感。フクヘン、流石です、と思いました。私は美術手帖は特集が面白そうな時に購入したり(何てったってちょっと廉価ではないのでね、時々しか。)して読んでますが、残念ながら芸術新潮は読んだ事がないので、つぶさにその2誌の違いとそれぞれの特徴などは言えないのだけど、今回の特集の取り組み方について、それぞれの編集長がプレゼンをし、それをフクヘンがまとめてくれました。


(画像は青山ブックスクールのサイトから引用 http://www.aoyamabc.jp/culture/fukuhen-wkspex1/)


【美術手帖】裁判的 証言的 映画的 傍聴席的 (読者は証言を聞いている)
【芸術新潮】演劇的 対話的 舞台的 観客的 (読者はストーリーの展開を見ている)

なるほど。美術手帖は文字が多く、(これは創刊からの誌風だそうですが)、出来る限りの情報を詰め込んで理解してもらい検証してもらう、と言うスタンス。芸術新潮は内容の中に演出や効果を施して当事者的な目線を引き出そうとしている。と言う違いでしょうか。各編集長のその基本姿勢に則った誌面の作り方、拘りなど競うようにして(しかし嫌な対抗意識もなく)語っていたのは興味深いものがありました。 美術手帖は、ベーコンのあのカオスの坩堝のアトリエを密室として捉え、ベーコンの制作を事件として捉え、あたかもサスペンスを仕立てるように展開させたそうです。方や芸術新潮はアトリエを編集部肝いりの演出で再現し、ビジュアルからそれにまつわるエピソードを展開していったそうです。表紙の作り方にも特徴が顕れていて、BTはただ事実をどばんと全面に『フランシス・ベーコン』、いかにも事実のみ、芸新は『20世紀のカリスマ フランシス・ベーコンを解剖する』とまるで電車の中の吊り広告みたいではないですか! 写真家の起用も対比されました。ベーコンと言うとモデルを使わずに写真を基に制作をする事を好んだことで知られていますが、BTは杉本博史が写真家の立場とかつての古美術商(評価する人)としての立場と両面でベーコンを語り、芸新では、セザンヌのアトリエを撮影している事で知られる鈴木理策がその目線で筆を寄せていています。面白かったのは、芸新の米谷編集長は自らベーコン展が(一般向けに)始まってから近美に足を運び、実際のジョージ・ダイアの前にゲラを持参して色校をやったそうです。(編集者ってすごい!と思いましたね。) と、この様な数々の面白い話を引き出しつつも、フクヘンがちょいちょいとベーコンにまつわるエピソードを披露してくれて、あっと言う間に予定の時間は過ぎていったのでした。それにしても、本当に、鈴木芳雄と言う人の持つ膨大なデータベースと言うか、知識と言うか、ネタと言うか、身近なものから高尚なものまで、するすると水が湧き出るように語られるその情報は凄いですね。しかも、書籍を読んで知っていると言うだけでなく、彼はその場所に行き、自分で見て、自分の体験の一部、自分が観て聞いた話としてそれを持っている。そして、それを伝える言葉は判りやすく、難解であることで知識人ぶりを誇示するのではなく、個人的に言えば理想的な知識人の姿だと思います。
と、まあ、話は尽きないのですが、ここであの時語られた事を垂れ流し的に記していてもしょうがないのでこの辺(全然言えていないですが)にしておきますが、20世紀のカリスマ フランシス・ベーコンを今現在美術愛好家に人気を博している2誌がそれぞれの論点で特集している。その違い。その対比。学生だったらこれだけで同時代の面白いレポートが書けそうですよね。学生さん、腕の見せ所です。(ワタシのメモもまるで学生が授業で取ってるみたいなものになっちゃいました。)
フクヘンからは数々のベーコンとそれを(時代をまたいで)取り巻く人々の興味深いエピソードも聴けたし、満足の2時間でした。こうなってくると、本当に3月21日に京都造形芸術大学・東北芸術工科大学の外苑キャンパスで行われた、脳科学者の茂木健一郎さんとフクヘンのベーコンについての対談を聞き逃したのが悔やまれます。

(● 画像は、『青山ブックスクール』のページからお借りしました。)

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by sanaegogo | 2013-04-23 00:00 | activity | Comments(0)


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