Gerhard Richter (ゲルハルト・リヒター) "New Strip Paintings and 8 Glass Panels"
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Gerhard Richter ゲルハルト・リヒターは1932年に旧東ドイツで生まれました。 御歳80歳にして未だに現代美術界を牽引し、ドイツを代表する現代美術作家であり世界で最も重要な画家の一人とされています。当時まだ壁の無かったドイツで、西側を旅行している際にポロックなどの抽象画に出逢い、当時の抽象表現主義に強い影響を受け、舞台の大道具や背景の絵を描いたり、広告看板を描く事を生業とした生活から抽象画家へ大きく舵を切るために、壁が誕生する直前に西ドイツに移住したそうです。 その手掛けている作品のシリーズには、自らの概念(コンセプトや思想など)を出来る限り排して制作されるというフォト・ペインティング(これは新聞や雑誌の写真を大きくキャンバスに描き写したもの。)、色見本のような規則的な色彩のパターンから構成されているカラーチャート、絵の具を何層にも塗り重ねてはそぎ落とす手法で描かれるアブストラクト・ペインティングなどがあり、複数のスタイルを同時進行で制作してきました。写真の再構成(再現)と言うリアリティーに近いところから抽象表現まで、表現するもののカバーする幅が広く、常に(ある意味)実験的な立ち居地で制作を続けていますが、そのフィールドが一貫して絵画と言う手法であって、多様な提示方法がある現代美術において廃れてしまいそうな昔の手法に留まるのではなく、絵画そのものの今後の可能性や伸び代を探り続けているその姿勢は、正しく老いてはますます壮、と言ったところでしょうか。



今回、WAKO WORKS OF ART(ワコウ・ワークス・オブ・アート) の開廊20周年記念展として、この現代絵画の巨匠ゲルハルト・リヒターの新作が展示されていると言うので観に行って来ました。

WAKO WORKS OF ART
Gerhard Richter (ゲルハルト・リヒター)
"New Strip Paintings and 8 Glass Panels"
会 期: 2012年12月8日~2013年1月26日
開廊時間: 11:00―19:00 日・月・祝休み
http://www.wako-art.jp/top.php

その新作が、ガラス版にカラフルなボーダーがプリントされた"Strip"と言うシリーズ。 この"Strip"と言う言葉には、〔細長い切れ、細長い一片〕という意味がありますが、同時に〔皮などをむく、はぎ取る、裸にする〕などの意味があります。 細長い一片と言うのはある意味一目瞭然なのですが、実はこのカラフルなボーダーは、リヒター自身が描いたアブストラクトペインティングの1枚を複雑にデジタル加工してプリントしたものだそうです。過去になった自分の作品を細かな要素に分解し、反復させて再構成する事で新しい価値を与えると言う試みです。古い絵画に染み付いた価値を剥ぎ取り、一旦裸にし、再び再構築をしてその美的価値を検証し直すと言う取り組みです。もともとの作品についての情報が無かったので、どのように変化したかは定かではなかったのですが、ポイントとなるべきはどれだけ変化したかと言う事ではなくて、変化を遂げて生まれ変わった完成形までの再構成の過程を考察する事なのだと思います。そこに介在しているデジタル技術やテクノロジー。それに巻き込まれていく絵画のあり方をリヒターは考察しようとしているようです。 なるほど、その精緻で多様な配色のバランスや色そのものの絶妙さは、考えて出来上がるものではないと言う気はします。そう、色合い配色は絶妙。そしてプリントの技術も素晴らしく美しく出来上がっている作品達でした。 これらは、直接手を触れる事が無く、リヒターの意見や考えや匙加減を加える事なく分解、再構成する作業で、デジタル・テクノロジーによって解体(strip)され、新たに全く違うものとして生まれ変わっています。 それは、現代においての生活や文化に知らず知らず入り込み、旧態を新しいものに変容させていくデジタル化の波に対してのリヒターからの問題提議だとも言えます。


   

あともうひとつのシリーズが、"Museum Visit"で、これは、ロンドンのテート・モダン美術館に訪れる人々を撮った写真に上書きするようにエナメルで塗りを入れたものです。これは、リヒターにとっては新しいシリーズでオーバー・ペインテッド・フォトです。写真の画像が極部分的で断片的にしか垣間見れないように塗られた赤や白のエナメル。透明性はないので、画像情報はエナメルによって遮断されていて、なかなか全貌を把握する事が出来ず、何だかモドカシイ感じがしました。 個人的には撮影されている写真自体ががどれもこれも良い作品だったように思えるので、その内容自体を知りたくて、かなりジックリと見入ってしまいました。 色々なアプローチがあるのですね。 リヒターは画家ですが、このアプローチは写真家にとってもありなのだと思います。 そして、メディアは何を用いて表現するか、手法は何を用いて表現するかの境目が消えつつある、と言うのが現代美術の面白さなのだと思います。
2011年から巡回している大回顧展はロンドン、ベルリンを経て、現在はパリのポンピドゥー・センターで開催されています。今年の12月には、オランダのアムステルダム市立近代美術館にて大規模な回顧展が開催されていて巡回展となる予定だそうで、日本にも来ないかなー、と思ったりしました。(抽象画とフォト・ペインティングをもっと観てみたいです。) (日本では2005年に金沢21世紀美術館と川村記念美術館で回顧展が開催されたそうです。)

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by sanaegogo | 2012-12-15 00:00 | art | Comments(0)


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