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マイケル・ケンナ写真展 「IN FRANCE」


マイケル・ケンナは1953年生まれ。Black/Whiteのしっとりとした風景を描き出す写真家で、その作品は既にいくつかの美術館の収蔵品となっています。その独特の空気感はハッセルブラッドの中盤カメラで夜中や夜明けに10時間にもおよぶ長露光で仄かで淡い光をフィルムに焼き付ける事で作り出されていて、しっとりとしていて静けさの中に独特の時間がしんしんと流れているような世界を描き出しています。美しくこの世のものとは思えないような写真の数々。時間の粒子が降り積もったようなその世界観は長時間露光によって丹念に丁寧に作り出されています。

マイケル・ケンナ写真展 「IN FRANCE」
BLD GALLERY
2012年5月16日(水) - 6月3日(日) 11:00 - 19:00

マイケル・ケンナ自身は精力的に各国で写真展を開催していますが、日本にも何度も来日して写真展や撮影をしています。 日本で撮った写真集もあります。



いつも遅筆なので、今回も会期終了まで残りわずかになってしまいましたが、今回のマイケル・ケンナもまた美しいフランスの風景をたっぷりと見せてくれました。 その写真は、リアリティー溢れる幻想的な世界、しっとりとした空気感、美しい漆黒、それらに満ちていて、Black/White によって、より抽象的などこかの誰も知らない世界に誘われて行くような気持ちになりますが、そこは現実のフランスの風景であり、現実の世界なのです。黒の奥深さと白への粒子の細かいさらさらとした何かを滑らせたような滑らかな諧調が素晴らしいです。 ケンナはそのプリント技術の卓越したところから、フィルムをやっていて自分でも現像・プリントを実践するような男性に好まれる作家だと思っていたのですが、実際に来場していたのは女性が殆どだったのは、単に平日だったからでしょうか。50点あまり並べられたフランスの風景。これらは現実のどこかの風景であると同時に、ケンナの見たケンナの心の中の心象風景でもあります。またその風景は、誰も見ていない時に、誰も気が付かない時に、ケンナの風景写真のような表情を見せ、それをケンナだけは知っているのだ、と言えるのかも知れません。夜中の長時間露光と聞くと、そんな事をふと想像します。露光時間が時には10時間にも及ぶと言う大胆さ、そして1枚1枚丁寧に焼き付けられた作業の緻密さ、写真集を手許に置いて、いつまでもうっとりと眺めていたくなるような、そんなケンナの世界観を堪能してきました。

余談ですが。
ケンナは北海道の雪景色も多く写真に収めていて、その(決して薄っぺらく透明ではない)重厚な質感のある白も私は好きなのですが、彼が北海道に撮影に来た時に自分の恋人と呼んでいたミズナラの樹が屈斜路湖畔にありました。そのミズナラは湖畔から湖に向って斜めに大きく伸びていて、幹は湖を覗き込むように傾いて立っていて、ケンナファンからは「ケンナの木」と呼ばれていました。ケンナは来日して機会あるごとに屈斜路湖畔にその恋人を撮影に行っていたのですが、ある年倒木の危険から伐採をされてしまったそうです。 伐採を決めた管理者はこのミズナラがマイケル・ケンナという著名な写真家の恋人という事も、「ケンナの木」と呼ばれ多くのファンに撮影されていた事も知らなかったそうです。普通の人からはただの倒木としか見えない1本の樹でも、それが自分を待つ愛しい恋人となる。 ケンナはやっぱりそんな風に、普通の人には見えない何かを見ているのかも知れないですね。














ケンナ氏の人柄が滲み出るロングインタビューです。
(2006年)
http://www.cool-ny.com/archives/365

屈斜路湖畔に佇んでいた
ケンナの恋人のミズナラ 「ケンナの木」


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by sanaegogo | 2012-05-24 00:00 | art


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