少年と自転車 (LE GAMIN AU VÉLO)


Bunkamuraのル・シネマは、『レディースデイ』はないのだけど、毎週火曜日には料金が¥1,000.-になります。 毎週です。しかもレディースだけではなく、男性諸兄も対象なので、これは女性のみならず皆さんにとってお得で、粋な計らいなのですねー。
そんな訳で、今仕事がとてもSlowなので、火曜日に早引けをして、ル・シネマに『少年と自転車』を観に行って来ました。 前々から行きたいと思っていたものの、うっかりしていたら、この週の金曜日には終了してしまうので、慌てて出かけてきました。

少年と自転車 (LE GAMIN AU VÉLO)
ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟監督 (2011年)

最近立て続けに2時間超えの長い映画をみていたので、上映時間が87分と知り、『短いっ!』と思ったものの、見終わってみると充分にストーリーは伝わっているし、そこでは語られていない部分がかえって『含み』のようになって、シリルのストーリー以外にさまざまな別のストーリーが隠されているようで、それにも少し考えを馳せたりしました。 シリルの母親はどうしたんだろう、生き別れたのか死別したのか、とか、サマンサは何故シリルの自転車を取り返してあげる気持ちになったのだろう、そこまで彼女の心を動かしたものは?とか。すんなりと里親になったり携帯電話を買ってあげたり、何か曰くがあるんだろうか、とか。いくつもの隠れたストーリーがシリルを取り巻くその状況を作っているし、その伏線となるまた別の様々なストーリーが凝縮されている、とも言えます。自分自身の原因で招いてしまった要因などひとつもないはずなのに、抱えきれないほどの悲しみや痛みを被っている11歳のシリルですが、一方では愛情を注ぐものを求めているかのようなサマンサにinvolveされていく事によって、少しずつ救われていきます。 この映画は実は、こんな風にいくつものストーリーが折り重なって出来ていて、同時に子供と言うものは、そんな大人の都合のストーリーに翻弄されてしまう受動的な存在なんだ、と強く思い知らされます。
物語中、シリルはいつも走っています。自転車であったり、駆けていたり、時にはサマンサの車に乗っていたり。 落ち着きがないと言うのではないけれど、動作が素早く鷹揚なところがまるでないのです。『お父さんと暮らしたい。』『お父さんのために盗んできた。』父親に対する言葉はぽつりぽつりと口にしますが、自分の感情は一切と言っていいほど口にしないシリル。でもこんな風に物語中常に疾走しているシリルを見ていると、その事で彼の心の叫びが伝わってくるような気がします。本当は『心温まる映画をみたい。』と思って出かけたのですが、そのような感じの映画でもありませんでした。オトナのエゴやシリルの自分ひとりでは乗り越えられない心の痛みや寂しさ、サマンサの真っ直ぐな母性とも言えるシリルをただ守りたい気持ちなど、曝け出された気持ちがぶつかり合って、物語は進みます。良い側面でも悪い側面でも登場人物はそれぞれの気持ちの根本の部分を曝け出しあって出来事のみが淡々と描かれています。間違った一途さが利用されてシリルは致命的な事件を起こしてしまいますが、色々な感情と真正面から向き合い乗り越えていきます。(ポスターにもなっていますが。) シリルとサマンサが自転車で川沿いの道を疾走していく場面の幸福に満ちたような表情は素晴らしいものがあります。その直後、手痛いしっぺい返しを被り被害者から復習めいた事をされ、更に再びオトナのエゴを見せ付けられるハメに陥るシリルですが、そこからものも言わず立ち去る場面で物語りは唐突に終わります。唐突ではありますが、そこにシリルがもはや昔のシリルのままではなく、サマンサから注がれている愛情によって確実にひとつ大人になった事が示唆されています。
いくつかの背景を持った登場人物達のストーリーがシリルを軸に互いにリンクし絡み合い、その事件を経て、またそれぞれのストーリーに戻って行くような、そんな映画でした。それゆえに抗しがたい状況に翻弄されていくわずか11歳のまだ少年のシリルが描き出せていたと思います。
個人的には、サマンサのあの母性愛がどこからやってくるものなのだろう、と言うのは気になりました。 あのような説明し難く、迷いも無くシリルに向っていくような愛情、寄る辺ない少年に注ぐ母性というものは、世の中のどの女性にも心の中にあるものなのだ、と改めて思ったりしました。(ワタシにとっては未だ、未知の心境です。)(母となる覚悟がある女性は強いのですね。) サマンサが何故あそこまでシリルを懸命に守ろうとしたのか。これはシリルの物語でもあると同時に、あからさまには語られていないサマンサの物語でもあるようにも感じます。

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by sanaegogo | 2012-05-15 00:00 | movie | Comments(0)


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