靉嘔 ふたたび虹のかなたに


靉嘔 ふたたび虹のかなたに
会場:東京都現代美術館 1F,B2F
会期:2012年2月4日(土) ~ 5月6日(日)

靉嘔(あいおう)は「虹のアーティスト」として知られていて、赤から紫までの可視光線(スペクトル)を重ねる「虹」をモチーフとして、と言うか、「虹」をメディアにして作品を生み出していると言ってもよいかも知れません。初めての回顧展と言う事だけど、とにかくその出展数の多さ、そしてその全てに溢れる生き生きとしたエネルギーのようなものを感じ、観終わった後は何となく、夏のビーチに日光浴に行った後のような心地よい疲労感みたいなものを感じた気がしました。 時々展覧会のご案内をいただく知人から、『娘が企画した展覧会だから』と言ってチケットをいただいたので、何の気なしに出かけてみましたが、とても面白く、楽しく、良い回顧展だったと思います。
展覧会に出かける前、ちょっと調べてみたら、靉嘔は茨城県に生まれた、と略歴に書いてあったので、日本籍の中国の方かと思っていたのですが、その名前は本名ではないようですね。名前の由来は、当時よく描いていた雲にちなんで、雲がたなびくさまを表した靉靆(あいたい)と言う言葉からから「靉」を、また「嘔」は当時夢中で読んでいたサルトルの小説「嘔吐」からをとって来て、「靉嘔」としたそうです。もっと言えば、この「あいおう」と言う言葉のサウンドも、ア行の中から友達の間で人気のあった音を順番に組み合わせたと言う事らしく、何ともシュールでちょっと刹那的な、若者らしい名前の決め方のように思います。『新たな造形や価値の創造を自らに課し、その誓いを心に刻むつもりで改名した』と靉嘔さんは振り返っています。
靉嘔は、日本では池田満寿夫らと共にデモクラート美術家協会に参加して、明るい色彩と力強い画題で躍動する人々を描いた数々の油彩画を発表して注目され、その後ニューヨークに渡り、知覚以外の感覚にも訴えるようなインスタレーションを制作し、絵画の枠に囚われずに活動するようになります。オノ・ヨーコにジョージ・マチューナスに紹介される事がきっかけで、フルクサスに加わって、当時のニューヨークの前衛的な芸術家と交流していくようになります。この靉嘔展ではこの頃のフルクサスでの写真も展示してあり、若き日のジャンヌ=クロード・クリストなどと一緒に写真に納まっているのもみる事が出来て、なかなか興味深いものがあります。
Pastoral, 1956


とにかくその出品数の多さには圧倒されます。どの時代の作風(スタイル)もかなり大判のものばかりで、どばーーんっとして迫力があります。単純な線で描かれているのに躍動感があり、特にスペクトルのみで画面を表現するようになってからも、青、藍、紫と言った寒色の重なりと線の丸みと光の帯の幅のみで立体感や奥行きを巧みに描き表していて、システマティックでもあり、自由な表現の中で躍動的に描かれているのですが、どこか毅然としたルールに則っていたり、統制されている中で表現されているようであったり、そんな枠の中をたっぷりと使ったある種の特殊な自由のような感じがします。「躍動感」と「統制」と言う相反する要素が全体に亘って混在しているのです。


300 meter Rainbow Eiffel Tower Project, Paris, 1987
Photo: Kenji Mizuyachi

現在のなお続くその旺盛な制作意欲と自由闊達な発想を存分に味わう事の出来る回顧展でしたが、コンテンポラリーの醍醐味は同時代であるが故にその制作活動がこの先も続いていく事を見続けていくことが出来る事です。 今回も、サンデー・プロジェクト/靉嘔によるワーク・イン・プログレスと言う企画が地下の展示室で行われていて、これは、「シジフォスの神話」と言う作品を靉嘔自身が、毎週日曜日の午後、オブジェクトを並べ替えるパフォーマンスを行うという、まさに in progress なインスタレーションも見ものです。この日も日曜日だったので、靉嘔その人が姿を現し展示室の床に並べられた七色のオブジェクトを崩し、また、新たに異なるものを作ると言う作業を見せてくれました。フルクサスのように半ば歴史の中に取り込まれている部分と目の前でこうして作業をしている部分。そのコントラストは何だか感慨深いものさえありました。


コンテンポラリーの展覧会と言えば、キュレーターの意図したテーマのもとに数名の作家の作品群を観せていく、と言うものが多く、それもそれで面白いのですが、やっぱり回顧展とか、ひとりの作家の個展でしかもこのように作品数が豊富であるとインパクトもあり、面白いですね。

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by sanaegogo | 2012-04-29 00:00 | art | Comments(0)


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